KISS OF LIFE

 

文

“WINGER”というバンド名でご存知の方がいるかもしれませんが、
そこのリーダー、キップ・ウィンガーのベスト1.2の「KISS OF LIFE」と「DANIEL」を
丁寧に紹介していきますね。

 

クレジット

KISS OF LIFE

1996年 キップ・ウィンガーKip Winger ソロ名義 1stスタジオアルバム「THIS CONVERSATION SEEMS LIKE DREAM」より

作詞:キップ・ウィンガー/Noble Kime 作曲:キップ・ウィンガー

演奏
ドラム:Rod Morgenstein
パーカッション:Mark Clank/Robbie Rothchild/キップ・ウィンガー
ソロギター:Andy Timmons
fxギター:Marc Shulman
ベース/ギター/キーボード/ボーカル:キップ・ウィンガー
バックコーラス:Greta Rose

 

DANIEL

同上アルバムより

作詞/作曲:キップ・ウィンガー

演奏
ドラム:Rod Morgenstein
パーカッション:Mark Clank/Robbie Rothchild
ギター:Andy Timmons
ベース/アコギ/ボーカル:キップ・ウィンガー
Helios String Quarted:Adam Gonzalez/David Felberg/Willy Sucre/Jonathan Amerding

 

歴史

「COLORADO」時代

1962年、アメリカコロラド州デンヴァーにてベーシストの父、シンガーの母のもと誕生。2人の兄はドラムとギターを演奏。
キップは5歳でキーボードを習い、ポール・マッカートニーの影響で7歳でベースを始め、8歳でプロミュージシャンになることを決心する。

13歳の時、兄弟3人でバンド「COLORADO」を結成し、学校のクラブやパーティーに出演していたが、ディスコが流行するとともに活動場所が減少したためニューヨークへ上京することとなる。バンド名を「WINGER」に改名してTWISTED SISTERZEBRAなどのバンドサポートをするが、成功に至らずデンヴァーに戻る。

 

「アリス・クーパー」時代

独学で習得した音楽知識を広げるためにデンヴァー大学の3年生に1年間編入する。17歳の時「COLORADO」時代に知り合ったボー・ヒルBeau Hillを頼って単身ニューヨークへ移住する。午前は16歳の時に始めたバレエ(後にコロラド州立バレエ団でソロを踊るほどの腕前に)、午後は、ジュリアード音楽院講師の個人レッスンを受け、夜はシンギングウェイターとして働いた。

バレエに関しては、表現者として歌以外に全身を最大限に使うためのダンサーのレッスンだったらしい。若い頃からプロ意識が高く、多方面から音楽的な知識や感性を深めているのがうかがえる。一つ一つ自分のものにしていく感覚は、子供が不本意なまま英才教育を受ける感覚とは真逆の、とても心地の良いものだったに違いない。

 

先述したボー・ヒルだが、アリス・クーパーAlice CooperフィオナFIONAラットRATT 等を手掛けた音楽プロデューサーとして成長しており、キップには「とにかく曲を書き続けること」と励ましながらベースが必要な時は彼に声をかけたり、デモテープの売込みにも尽力していた。

ある日、アリス・クーパーのレコーディングに起用されたのをきっかけに、バックバンドの一員として参加することとなる。

 

「WINGER」時代 (1987年~1994年、2001年~現在)

セッションミュージシャンとしての地位が確立した頃、パーマネントなバンドで音楽活動を続けたいと思うようになる。ちょうど機が熟した頃だったのだろう。

アリス・クーパー時代にセッションプレイヤーとして一緒だったポール・テイラーPaul Tailorをキーボードに、フィオナの時一緒だったレブ・ビーチReb Beachをギターに、そしてデキシー・ドレッグスDIXIE-DREGSロッド・モーゲンスティーンRod Morgensteinをドラマーに迎き入れた。

 

曲の印象は、知らず知らずに口ずさんでいた、というほど強烈なメロディーではなく、どっちかというと演奏とアレンジがカッコイイという印象だ。そして、定期的に聴いても飽きないぐらいよく練られた楽曲だと思う。そんな感じなので、チャートでも長い期間ランクインしているし、ライブを重ねるごとに人気も高くなっている。楽曲はもとより安定したプレイとバレエで培った表現力や立居振舞も成功の秘訣だと思われる。言うのを忘れていたのだが、ボーカルも上手い。急に高音を出すことが多いのだか、ヘッドセットを使用していても奇麗にボリューム調整ができていて聴きずらいということがなく、むしろ心地よいぐらいだ。(ヘットセットだと口とマイクの距離が固定されていてボリュームが調整しずらい)
途中からライブの感想になっていたが、特に感心したのが、ブレイク後の合わせのタイミングやボリューム感、そして徐々に盛り上がっていくキーボードソロとバックなんかは、楽器は違うがクラシックの指揮者がいるように感じる部分もある。多分、オーケストラでは各楽器の特徴を熟知していろいろな技法を取入れながら楽曲作成していくのと同様に、ロックの世界でも楽器に分け隔てなく使用する楽器の特性を最大限活用するとともに、場面場面での主役・脇役を上手くコントロールしているのだろう。

 

彼らしいエピソードがある。1991年、音楽活動の成功を手にしているのだが、『MTV依存型のヴィジュアルバンド』というイメージも張り付いていたことに対し、「耳にスムーズだが音楽的に様々な工夫が施されたり、高度なアレンジやプレイが要求される楽曲の真の姿を、またそれを実際にステージで再現できるミュージシャンシップを理解していたのは、同業者のミュージシャンとごく一部のファンだけだっのか?ミュージシャンとて正当に評価しない連中に自分を証明することは不断の戦いになるだろう」と発言されていたようだ。キップに言ってあげたい、「仕掛けがわからないぐらいスマートにできているからこそ、理解できない人を上手く騙しているという事ですよ、ただのヴィジュアルバンドと思わせとけばいいじゃない!」って。

今回、WINGER時代+KIP WINGER時代のアルバムライナーノーツ計7枚(音楽評論家4人)を参考にしました。しきりに登場するワードに「オーケストレーション」というのがあり、何となくクラシックよりのアレンジのことだとは想像できます。意味を調べると『管弦楽法のことで、音楽上のアイデアを最も合理的かつ効果的な方法によって管弦楽団(オーケストラ)で表現する手段を研究し体系化する学問』ということだけど少々わかりにくいですね。一般的な印象としての、ポピュラー音楽よりはオーケストラによるクラシック音楽に近い感じのアレンジと思うことにしましょう。先述したように貪欲に音楽を勉強した経験がありますが、それをそのまま現場で使うのではなく、自分の中で一旦解体して得意なジャンルの音楽に当てはめて利用しているように思う。何気で聞いただけではわかりにくいですが、意識して聴くとわかる曲もあります。他のジャンルに当てはめるという行為は、知識に加え柔軟性や感性+αが必要で並大抵ではできないと思う。原曲をオーケストラバージョンにアレンジするというのとは異なります。またヘビーメタルに多い、インプロビゼーションにクラシック風の曲を入れ、脈略なく突然高速ツインペダルやギターのリフが始まったりするタイプは論外です。(差異を表現するために敢えて悪者にしてしまいました、すみません。)

ここで、オーケストレーションのよさを活かした「WINGER」の曲を紹介します。

文

“WINGER”時代の2ndアルバム『IN THE HEART OF THE YOUNG』から
「Rainbow In The Rose」
ホーンセクションを入れるタイミング、キーボードの入れ方、ギターとバックのハーモニーのバランスなどなど端正な構成にあっぱれです。

 

「WINGER」時代のスタジオアルバムは、後期を含めて6枚である。

 

「KIP WINGER」時代 (1994年~現在)

1994年、一旦きりをつけ、メンバーそれぞれの活動にシフトチェンジする。

キップは、「KIP WINGER」名義でソロ活動に着手するが、独りで何もかもやるスタイルのソロアルバムは好きではなく、曲ごと、アルバムごとにプレイヤーや共作者、プロデューサーを選んでいるようだ。私の把握している限りのソロ名義のスタジオアルバムは、ロック調のものが4枚とバレエ音楽(クラシック)とミュージカル仕立てのもの等の計7枚。実にバラエティーに富んでおり、バレエ音楽なんかは一ベーシストが制作したものとは信じがたい出来だ。そして、ソロアルバムの間には、有名ミュージシャンとの共作アルバムやセッションアルバムも存在し、自分のアルバム同様に力を注いでいる。仲間とのプロフェッショナルな信頼関係を構築しながら、彼が目指す目標(大目標)に向けて着実に一つずつ小目標を達成している様がうかがえる。

掲載の仕方にもよるのかもしれないが、ヴィジュアルバンドと言われることに対しての気持ちやマルチプレイヤー的な作品を否定するところを見ると、結構負けん気の強い性格に思える。業界にいると自分の気持ちを抑えるなどの忖度がはたらくことも多いだろうけど、確固たる自信があっての発言なのだろう。

現在は、何に挑戦しているのだろうか?

私は、やっばりロックがいいな。

 

ベスト1.2の聴きどころ

KISS OF LIFE

私も、バンド活動の中で曲を作ることがあり、キーボードでバックを打込みMTRでボーカルをかぶせてメンバーにデモテープを渡していた。アレンジが得意ではないが打込みをすると何となく曲として成立っていくので楽しい作業だ。ご存知ない方に簡単に説明すると、キーボードの中にMTRの機能があり、音を複数のトラックに分けて録音しそれをミキシングして1曲に仕上げることができるのです。不思議に思うかもしれませんが、キーボードにはドラムやベース、ギターその他どんな音色でも入っているので結構何でもできます。そして、専用機材のMTRにその出来上がった曲をステレオで2トラックに通し、ボーカルのトラック、コーラスのトラックに分けて録音し、ミックスダウンしてデモテープの出来上がりという具合です。しかし、成行きのアレンジだし、そもそも私作なので決していいものはできません。

そんな中、この「KISS OF LIFE」を参考にしてみよう!
と思って分析をしかけたことがありました。何故この曲を選んだのかというと、混沌としいるように聞こえる楽器の複雑な絡み合いが妙に魅力的だったからです。今こうやってキップ・ウィンガーのことを記事にしていると、その時よりは分析できそうですが、当時は訳がわからなくなって即行やめました。どこかの記事でも書いたことがありますが、私の本来の曲との接し方は、好きな曲は聴くだけで背景を探ったりすることはなく知識は0に等しい状況です。今回、ライナーを読み漁ることにより「オーケストレーション」という言葉に出会い、今まで聴いていた彼の曲を違う側面から聴きなおすと、より深く音楽性について理解できるように思えました。と言っても、以前の私よりはわかるかも?という程度です。”混沌“としているかのように思っていた部分も、実は曲を少し遠くから見ると”秩序“が保たれているのかもしれません。考えてみれば、他のポピュラーソングでも似たような作りの曲はありますが、そのテクニックを何気に使うのか、それとも技法として意図的に使うのかは大きな差があるのでしょうね。

 

まだまだ分析できないこの曲「KISS OF LIFE」、このままわからずに聴く方が私には魅力的に映っている…の…かも…。

皆さんには、どのように映りますか?

 

DANIEL

先ほどのクールな曲「KISS OF LIFE」に対して、少し情緒が感じられる柔らかみのある曲「DANIEL」ですが、こちらの方がダイレクトにオーケストレーションの組立てがわかる曲です。1番のBメロ辺りから徐々にオケとの融合が始まりエンディングに向けてどんどん盛上っていきます。オープニングから登場しているギターのカッティング部分とオケとの馴染みがよく上手く対比しているように思う。

両方の曲に言えることだが、幸い今回は翻訳された歌詞がある。しかし、私には意味不明で理解できない。このアルバムタイトルのことを当時のライナーノーツでは次のように語られている。

 

「THIS CONVERSATION SEEMS LIKE DREAM」-夢のような対話-  その対話の相手は”音楽”そのもの”音楽を誕生させる源たるは何か”ではなかったか…? 7歳でミュージシャンになることを決意し、音楽こそが自らの人生を成就させるものだと信じ、その信仰心にも似た強い思いで音楽創造を続けてきたキップ・ウィンガーというミュージシャン/コンポーザーの”音楽を通じて自分のリアリティを探求する旅”は、今ここにひとつの形を成し、これからも続けていく…。 20th April 1997 大野奈鷹美(Naomi)/BURRN!

彼の心の中を抽象的に書かれているのでしょう、悲しいかな私にはわかりません。

歌詞はわかりませんが、ロックとクラシックが絶妙に重なると、なんて素晴らしいのでしょう!!

 

試聴

文

お待たせしました!
先ず最初に、キップ・ウィンガーの「KISS OF LIFE」
コレ聴け!

 

文

続きまして2曲目「DANIEL」
コレ聴け!

 

言い訳

専門用語「クラシック」「オーケストラ」「オーケストレーション」等を区別しながら記述しているつもりですが、厳密的には使い方が間違っているかもしれません。その辺は、大きく分けて「ポピュラーソングの分野」と「クラシックの分野」を言っている程度に解釈してください。
よろしくお願いします。

 

「WINGER」1st~4thスタジオアルバムのライナーノーツ
「KIP WINGER」1st~3rdアルバムのライナーノーツ