今回は、名曲だけに一ファンとして
惜しい部分も含めて丁寧に紹介していきますね。
“キャメル”のキット・ワトキンスも元メンバー
クレジット
1978年 2ndアルバム 『CRAFTY HANDS』より
メンバー紹介
スタンリー・ウィテカー Stanley Whitaker ギター、ボーカル
フランク・ワイアット Frank Wyatt キーボート、サックス、フルート
キット・ワトキンス Kit Watkins キーボート、リコーダー
リック・ケネル Rick Kennell ベース
ロン・リドル Ron Riddle ドラム、パーカッション
プロデュースは、スーパートランプ、エルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、ジェフ・ベック等を手掛けたケン・スコットKen Scottである。
アメリカ出身5人編成バンド
※Service with a Smileのクレジットは、
ロン・リドルとザ・カーズのキーボード奏者 グレッグ・ホークスGreg Hawkes となっている。
プログレ
“ゲーテのファウスト”と”ピザ饅”
グループ名”HAPPY THE MAN”は、ドイツを代表する文豪家”ゲーテ“の「ファウスト」から引用されたらしい。恥ずかしいことですがあれだけ有名な戯曲を読んだことがないので、誰かが発した言葉なのか、人の名前なのか何なのかはわかりません。『幸せな男』意味だけから付けたのだとすると安易であまり知的なネーミングではないけど、有名な戯曲からの引用だと趣がありお洒落な印象になりますね。
ですが、プログレを語る際、敬称で『ピザマン』と呼ばれることがあります。きっと日本発信なんでしょうけど…
キット・ワトキンスはキャメルへ
HAPPY THE MANの経歴ですが、よくわからない部分も多いので簡単に紹介します。
1972年、徴兵関連でドイツに滞在している時スタンリー・ウィテカーとリック・ケネルが出会い、アメリカに戻って1993年にバンド結成することとなる。ドイツでヨーロッパのプログレに触れたことが大きなターニングポイントになったと言えるだろう。
結成から後期に至るまでにメンバー交代はあるが、比較的スタンリー・ウィテカーとリック・ケネルに加えフランク・ワイアットとの活動は長い。
1977年の1stアルバム「Happy the Man」リリースまでの数年間は、色々な人脈があり活動にも幅があったようにうかがえる。ライブ活動も精力的に行い、ジェネシス、キングクリムゾン、ファン・デル・グラーフ・ジェネレーターのカバーもやっていたらしい。
1973年、今回紹介る2ndアルバム「CRAFTY HANDS」をリリースするが、商業的には結果を残すことができず解散となる。メンバーそれぞれ別バンドを組むことになるのだが、キーボードのキット・ワトキンスがイギリスのプログレバンド”キャメル“に参加することとなるのは『ピザマン』と呼んでいる界隈の人達に知らない人はいない。
そして、1983年、解散前に温めていた3rdアルバム「Better Late…」をキット・ワトキンスのレーベルでリリースすることとなる。
10年が経って2004年、再結成後4thアルバム「The Muse Awakens」をリリースすることとなるのだが、当時スタンリー・ウィテカーが組んでいたバンド「TEN JINN」がメキシコで開催されたプログレ・フェスティバルに参加した際、元ピザマンのメンバーだったことが、世界中から集まった客の中のピザマンファンに知られ取り囲まれるという出来事があった。その後、プロモーターからの提案があり再結成に至ったとのこと。
そして、近年テクノロジーの発展により、1stアルバムリリース前の発掘音源が数枚リリースされている。フランク・ワイアットの作のものが多く、陰の貢献度がうかがえる。
反復
彼らの音楽の特徴は、反復メロディーをベースに使うことだ。いわゆるミニマルミュージックというものだと思う。ウィキペデイアでは『音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる音楽』とあり、単純な繰り返しが心地よいという効果があるらしい。どれぐらいのものをどれぐらい繰り返したらミニマルミュージックになるのか、シーケンサーはどうなのか、アルペジオはどうなのか、そのへんの定義はわからないが、HAPPY THE MANは多分ミニマルミュージックという手法を使用していると思う。曲単位、部分的、適材適所に使用することは好感がもてるが、アルバム通してミニマルミュージックというのはちょっと… プログレ界にはそういうシーンがあるのかもしれない。私自身ミニマルミュージックの知識が少ないのも確かですが、多様することに対して否定的な理由は上手く言えませんが、音楽を作る順番が違うような気がするからです。HAPPY THE MANは上手く取入れていると思います。
とにかく、惜しい!!!
LPレコードならではのアルバムコンセプト
今回名曲に選んだ「Service with a Smile」の聴きどころを説明していきます。
ところで、LPレコードを聴いたことや手にしたことがありますか?私が音楽に興味を持ち始めた頃はレコードとカセットテープの時代でした。どちらにもA面B面(表裏)があり、カセットテープに録音して自動車やラジカセでレコード代わりに聴いていました。要するに、録音したカセットテープのA面を聴き終えたらB面にひっくり返してレコードのB面を聴くようにカセットテープのB面を聴くのです。今の時代には考えられない作業でしょうね。
CDだと、1枚にの中に15曲前後入りますが、LPは両面合わせて10曲程度です。裏返すという作業は面倒くさいですが、そこにブレイクが入ることにより、1枚のアルバムにストーリーが生まれるのです。というか既にストーリーが組み込まれているんです。1枚通してコンセプトがある場合もあれば、それぞれの面で完結しているものもあります。片面5曲程度なので1曲1曲のポジションが頭にインプットされやすく良さも際立ちます。なので、自分の中で1曲目はこうあるべき、エンディング前の曲はこうあるべき等の理想が育まれていきます。カセットテープでジャンルごとのベストアルバムを作る際は、自分だけのセオリーで曲選びができ至福の時間でした。だけど、CDだと切れ目なく15曲続くので制作者側もコンセプトづくりに悩みますよね。クラシックなんかは、逆にその方がいいのかもしれないですけど。
反復削って1分ください!
先述のようなことが根付いている我々世代だからこそ言えるのが、このアルバム1曲目の「Service with a Smile」の問題です。
ピザマンを知っている大抵の人が絶賛する曲のわりに、ボジショニングが合っていないような気がするんです。インパクトが凄いですから1曲めにするのは大賛成です。しかし2曲目への流れ、他の曲との長さのバランス、他の曲調との違い…
結果、私の身勝手なプロデュースですが、1曲目はインプロビゼーションの意味合いも含めると6分ぐらいが理想です。しかし、現実的には曲調はそのままでキーボードのソロを入れるとかして、2分、いや1分でもいいので増やしてほしかった…。
というわけで、名曲ですが残念ながら殿堂入りにはなりません。
どれかの曲の反復を削って、1分「Service with a Smile」にください。
8分の11拍子の画像がこちら
ミニマルミュージックが得意なこと、演奏力があることから生まれた曲とも言える「Service with a Smile」
第一印象は、複雑、奥行き感あり、カッコイイ、酔いそうなグルーブ感ってところでした。それがどうしてなのか紐解きながら紹介します。
バックのリズムは8分の11拍子のようです。8分音符を11回数えるより123,123,123,12と数えた方がリズムがとりやすいです。その上にゆったりと4拍子らしきギターのメロディーが乗ってきたかと思うと、いい意味でもたついた感じのドラムが入り、ココという部分でブレイクを入れまとまりをつくる。大きな波に乗っていたかと思うと、突然落とし穴に落ちるみたいな感覚で酔いそうです。石につまずく感じとも言えます。ひたすら辛抱に入るキーボード、それらすべてが相まって奥行き感のある楽曲に仕上がっているのだろう。複雑すぎて、紐解ききれません。
冒頭のイラストが私の抱いたイメージです。変拍子の絡み合いの中で魔法にかかったようにパカっとはまる瞬間があり、瞬間瞬間を万華鏡のように色々な景色を見せてくれるような感じ。
「笑顔で奉仕」には遠いイメージだ。なんて想像力が乏しい私なんだろう…
最後に、初めて名曲を聴いて「タイプです!」という方、アルバムの他の曲調は少し異なりますのでご注意願います。
と言っても、危険ではありませんからご安心を。
大きい声では言えませんが、この曲を聴くとカッコイイ人に出会ったみたいにドキドキします。
試聴
それでは、問題作「Service with a Smile」
コレ聴け!
※参考 : フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リック・ケネル公式サイト
2ndアルバム、3rdアルバムのライナーノーツ